キャベツの花はブロッコリー(アブラナ科のなかま)

4 月 8th, 2009

スーパーマーケットに行くと、すでに春野菜がたくさん並んでいる。ブロッコリーもその中のひとつ。かるくさっと茹でて、マヨネーズでもつけて食すととてもおいしい。

ブロッコリーブロッコリー Brassica oleracea var. italica (京都市北区)

このブロッコリー、食べているところはつぼみのかたまり。だから置いておくと時々黄色い花が咲いてしまうこともある。この黄色い花、どこかで見た覚えがある方も多いだろう。とてもナノハナに似ている。それもそのはず、ブロッコリーとナノハナ、いずれもアブラナ科に属する比較的近い種どうしだからだ。アブラナ科のなかまに共通する一番の特徴は花のかたち。このなかまは花びらが4枚で、正面から見ると十の字になっているので、アブラナ科は以前は「十字花科」と呼ばれていた。アブラナ科の花芽が食べられてしかもおいしいという発見が古代におそらく独立して生じ、それが西洋ではブロッコリー、東洋ではナノハナだったのだろう。

ブロッコリーの花ブロッコリー Brassica oleracea var. italica の花 (京都市北区)

ナノハナとニホンミツバチナノハナ Brassica rapa の蜜を吸うニホンミツバチ Apis cerana japonica (兵庫県加西市)

それにしても、ブロッコリーの食用部位である花芽のかたまりは他の植物に比べて発達しすぎである。それはもちろん品種改良の結果によるものなのだが、それではブロッコリーにはほかにも品種があるのだろうか。その議論を進める前に、ここで生物学的に「種」と「品種」の概念の違いについて簡単に述べておきたい。「種」が異なるというのは実質生殖できないという意味であり、「品種」が異なるというのは種は同じだがその中で系統が異なるという意味である。例を挙げると、前者はイヌとネコとの違いを意味し、後者はブルドッグとラブラドールレトリバーの違いを意味する。種の概念は現在でも生物学者たちをおおいに悩ますもののひとつであるのだが、ここではそこまで厳密なレベルは要求されないだろう(ちなみにナノハナの類も分類に関してかなり混乱がみられる)。とりあえず話を戻すと、ブロッコリーとナノハナとの違いは種レベルで異なる。そしてブロッコリーは品種のひとつであり、そのほかにも同じ種で違う品種があるのか、それは何かということである。

結論をいうと、キャベツとブロッコリーとは生物学的にはまったく同じ種であり、いずれも学名はBrassica oleraceaという。同種であるからもちろん交配も可能。かたや葉を大きく肉厚で結球するように、かたや花芽を大きくかたまりになるようにそれぞれ人為的に選抜がかけられた結果、現在のキャベツとブロッコリーになったわけだ。もちろんブロッコリーを育ててもキャベツにはならないし、逆もまたしかりだ。しかし生物学的には上記の理由から、表題のように「キャベツの花はブロッコリー」と言っても過言ではない。同じように芽キャベツは茎から出る芽がそれぞれ小さいキャベツのようになるよう人為的に選抜がかけられてできた品種で、キャベツやブロッコリーと同じ種。カリフラワーも同様であり、見た目の通りブロッコリーにきわめて近い品種とされ、どちらも学名はB. oleracea(同じ学名を繰り返し使用する場合、2回目以降は属名を略記するのが通例である)。また、見た目に美しいよう改良されたのが正月に飾るハボタンである。では、見た目がキャベツに似ているレタスはというと、残念ながらレタスは違う種でありアブラナ科ですらなく、実はキク科でタンポポに近い種であり、「タンポポは野生のレタス」と言ってもあながち間違いではない。

キャベツキャベツ Brassica oleracea var. capitata の蕾 (京都市左京区)

キャベツとう(花茎)が立ったキャベツ Brassica oleracea var. capitata の蕾 (京都市左京区)

キャベツキャベツ Brassica oleracea var. capitata の花 (京都市左京区)

ハボタンハボタン Brassica oleracea var. acephala の花 (京都市左京区)

それではこれらの品種の大元である原種はいったいどんなものなのだろうか。その原種にきわめて近いとされるのがケールという作物であり、種が同じなので学名はもちろんB. oleraceaである。青汁の原料として用いられていることでご存じの方もいるだろう。地中海原産のケールには、同じ種でありながらいろいろな個性がみられ(変異という)、その個性のうち人間に都合が良いものをかけ合わせたり選抜したりすることで、キャベツやブロッコリーのように全然異なる形態へ変わってしまったのだ。その過程には突然変異と呼ばれる遺伝子の変化により生じたものもあるだろうが、キャベツやブロッコリーのもつ要素のほとんどは元々原種であるケールの遺伝的な多様性が保持するポテンシャルによるものがきわめて大きい。実際野生のケールの種子を採集して畑にまくと、背が高いものや低いもの、葉が大きいものや小さいもの、赤いものや緑の濃いものなどいろいろな形質のバリエーションが生じるらしい。 それでは話をキャベツなどのB. oleraceaからもう少し広げて、アブラナ科の野菜にはどんなものがあるかをみてみたい。これらの判別には、先ほど少し説明したように花の形を用いるのが比較的簡単である。つまり、花びらが4枚である菜の花のような花を咲かせるものを探せばよい。主なものに、

  • アブラナ(菜の花、菜種) Brassica rapa var. nippo-oleifera
  • カラシナ(辛子) Brassica juncea
  • チンゲンサイ Brassica rapa var. chinensis
  • ハクサイ Brassica rapa var. pekinensis
  • コマツナ Brassica rapa var. peruviridis
  • カブ Brassica rapa var. rapa
  • ダイコン Raphanus sativus
  • ワサビ Wasabia japonica

などがある。春の七草のひとつであるナズナ、いわゆるぺんぺん草も同じ仲間。これらの種はカラシ油配糖体と言われる辛み成分を持つのが特徴であり、多かれ少なかれ食すと辛みを感じる。この辛み成分は元々植物が草食性の昆虫などに食べられにくいよう組織に蓄えているものなのだが、人類はこの辛み成分をむしろ薬味的に利用してしまったらしい。ちなみにワサビはほかの植物が生えないようアリルイソチオシアネートとよばれるカラシ油配糖体に由来する物質を根から放出するのだが、その物質がワサビ自身にも悪影響を及ぼす、いわゆる自家中毒を引き起こし、自分自身もその物質のせいで大きくなれない。きれいな水がふんだんに流れているところでワサビを栽培するのは、その物質を絶えず流し捨てて食用部を大きくするためである。カブとダイコンは食用部が形態的に似ているので、同じ種の異なる品種と思われがちだが、実は種レベルでの違いがある。カブはナノハナやハクサイと同じ種なので花が黄色だが、ダイコンの花は白色か薄紫色なので、このことからもカブとダイコンが別種であることがイメージできるのではないだろうか。これらの仲間は食用部の形こそ違えど、花や種子はそっくりだし、そのほかにも似ているところが多い。また料理の際に、キャベツとブロッコリーとか、ハクサイとダイコンと和辛子とか、同じ仲間だからかこれらの組み合わせは無難であることも多い。

スーパーマーケットの野菜売り場で「これは菜の花の仲間、これも菜の花の仲間」と少し意識してみながらお買い物をしてみてはいかがだろう。もちろん、その食材を食すときにも意識してみるのも、なかなか味であり乙なものである。

ダイコンダイコン Raphanus sativus の花 (兵庫県加西市)

ダイコンオオアラセイトウ Orychophragmus violaceus の花 (兵庫県加西市)

セイヨウカラシナセイヨウカラシナ Brassica juncea の花 (京都市左京区)

ナズナナズナ Capsella bursa-pastoris (兵庫県加西市)

タネツケバナタネツケバナ Cardamine flexuosa (京都市左京区)

ミチタネツケバナミチタネツケバナ Cardamine hirsuta (京都市左京区)

シロイヌナズナシロイヌナズナ Arabidopsis thaliana (京都市左京区)

コンロンソウコンロンソウ Cardamine leucantha (京都市左京区)

Comments are closed.